銀食器から考えるブランド力 

ここのところ、義理の母から引き継いだ銀食器を整理しています。ヨーロッパでは昔から子供が生まれたり、洗礼の時にイニシャル入りの銀の食器をプレゼントする習慣があります。日本で自分用のお茶碗やお椀、お箸を使うのと似たような感覚かと思うのですが、結婚する時嫁入り道具としてイニシャル入りのカトラリー 一式を用意したお家もあるようです。個人的に若い頃から食器類が好きだったので、今の夫と結婚する時に義理の母に何か欲しいものあるか、と聞かれた時に、代々伝わる食器があれば、と答えたのを覚えています。その時にもいくつか頂いたのですが、義理母が亡くなって遺物の処理をする際になぜか夫はたくさんのカトラリー類をもらってきました。変色しているものも多いので一度手入れをしようと色々調べ始めました。すると多くの製品がJezler(スイス1822-)とクリフトフル(フランス1830-)のものであることが判明。クリストフルはフランス製品ですが、ブランドとしての明暗ははっきり分かれています。 

クリストフルは銀食器を王侯貴族だけのものから裕福な市民階級にも広げる技術革新を起こし、同時にフランス宮廷御用達という最高級ブランドの地位も獲得したブランドとして、現在も世界的ブランドに成長しています。純銀の製品は高価でしたが、銀メッキの技術を取り入れることで、高級感と耐久性を持たせて大量に揃えられるようになったことで市民階級にも一気に取り入れられるようになりました。そしてデザインにもこだわった。高級でもメッキであればいつか禿げますが、禿げてもまた新たにメッキをかければずっと使っていくことはできます。ある程度の時間が経つと手入れが必要になってくるということも、顧客とのつながりを考えると良いです。

一方、Jezlerは品質にこだわったと言えます、家内製手工業のように、本物を基本手作りで、優秀な職人の手にこだわった。メッキではなく無垢の銀製品を作っています。19世紀の機械化も取り入れたものの、最後は熟練職人の技、をうまく組み合わせた感じでしょうか。そして顧客層はいわゆる富裕層、当時頭角を表してきた商人や、ギルド関係者、特別な人たちのためのものという高級路線を変えなかったことも違います。

純銀は少し磨くと、素晴らしく蘇ります。実際義理母から引き継いだカトラリーも100年近く経っているものとは思えないほどピカピカに蘇りました。でももしかするとここに落とし穴がありそうです。壊れない、自宅で掃除する程度でまたピカピカに蘇る、しかも、世代を超えて。となると一度売ってしまった製品との関わりを持つのは難しい。げんに私は祖母の時代、もしくはその前の時代のものを今修理に出しているわけで。

Jezler社は、1996年にチューリッヒの銀製品を扱う会社に買収されて、現在もブランドは残っていて、オーダー、修理等は受け付けているようですが、会社としては消滅しています。